海外ビジネスの現場では、思いがけない出会いが成功への扉になることもあれば、破滅の入口になることもあります。
特に初めて訪れた国では、笑顔やフレンドリーな態度が「信頼」の証に見えてしまう──そんな落とし穴があります。
今回は、たった一杯のコーヒーから始まった悲劇の実話をご紹介します。
1/実際にあったケース(ストーリー)
ある日本の中小企業の社長が、ベトナム進出の可能性を探るため、初めてホーチミンを訪れました。
現地視察の合間、ふと立ち寄ったカフェで、一人のベトナム人と意気投合します。英語もそこそこ話せて、会話のテンポも良く、「ベトナム人はフレンドリーで、いい人が多いな」と強く好印象を抱いたそうです。
そのベトナム人は、にこやかにこう持ちかけました。
「日本の技術を使えば、ベトナムで必ず成功しますよ。土地も人脈も、私が全部用意します!」
わずか数日の出会いにもかかわらず、社長は「共同事業」という形で工場建設の契約を結び、約1,000万円(約7万ドル)を振り込みます。
数週間後、「順調に進んでいます」と工事現場の写真まで送られてきて、社長は安心していました。
──しかし、その後、連絡はぷつりと途絶えます。
調べてみると、送られてきた写真は別の場所の流用、工場など存在せず、資金はカジノやナイトクラブで消えていたことが判明。
社長は呆然──まさに「親切心が仇になった」瞬間でした。
2/背景にある文化的ズレ:「スピード感」と「形式主義」
このケースの背景には、「信頼関係を築くスピード」と「契約の捉え方」の違いがあります。
- 日本人の感覚:まず相手の人柄を見る。誠意が伝わればお金を託す。信頼があれば手続きは後回しでも構わない。
- ベトナムや一部の途上国文化:契約書や手続きが整っていない=本気ではない証拠。
さらに、ベトナムでは「顔が広い人=有能な人」という評価が根強く、その“演出”に日本人が弱い傾向があります。
「日本人=お金持ちで警戒心が薄い」という先入観もあり、詐欺の土壌ができやすいのです。
また、日本的な「疑うのは失礼」という性善説の文化は、海外ビジネスの現場ではしばしば裏目に出ます。
3/教訓:笑顔の裏にもリスクあり
同じ過ちを避けるためには、次の点を徹底する必要があります。
- 「いい人そう」に惑わされず、経歴や実績を徹底的に確認する
- 第三者(通訳・コンサル・専門家)を介して交渉する
- 出資や送金は段階的に行い、実績とセットで進める
- 現地法人の設立や契約書の精査は必須。口約束は命取り
4/まとめ
「ベトナム人はフレンドリーで誠実だ」という直感は、必ずしも間違いではありません。
しかし、ビジネスの世界では、“人柄”よりも“仕組み”があなたを守ってくれます。
国が違えば、正しさの基準も、誠意の伝え方も異なります。
カフェで出会った相手に1,000万円を託す行為は──
ある意味、パチンコで全財産を賭けるようなものだったのかもしれません。
📖 本記事は『ベトナムビジネスで失敗した日本人たち──文化の違いが招いた10の実話と教訓』からの抜粋です。
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