ベトナムの兵士

ベトナム

ベトナムの独立は「くれた」ものではない──長い闘いの歴史

「日本がベトナムをフランスから解放してあげたんだよ」

先日、日本人の知人がこう言いました。
しかも本気でそう信じている様子。

私は一瞬、笑って流そうかと思いましたが、心の中でこうつぶやきました。
──「それは、強盗が別の強盗を追い払っただけの話ですよ」

日本がベトナムにやってきた1940年、そこはすでにフランスの植民地。日本は“解放者”としてではなく、戦時の戦略の一環として進駐し、資源や物資を確保しました。独立をプレゼントしてくれたわけではありません。

(※1940〜1945年の日越関係については、こちらの記事でも詳しく解説しています → [日本とベトナム 1940–1945年の歴史:それは「解放」ではない])

むしろ、1945年に独立を宣言してからの道のりは、そこからが本番でした。


1/1945年──独立宣言と新たな戦いの幕開け

1945年9月、日本の敗戦と同時に、ベトナムはホー・チ・ミン主席のもとで独立を宣言しました。
しかし、平和は一瞬でした。敗戦後、日本軍は武装解除され、フランスが再び戻ってきます。つまり「解放」ではなく、「強盗が別の強盗に入れ替わった」だけのことです。

フランスは旧植民地支配を回復するために軍を投入。ベトナムは再び戦火に包まれます。これが第一次インドシナ戦争の始まりでした。


2/1954年──ディエンビエンフーの衝撃

9年に及ぶ激戦の末、1954年、ディエンビエンフーの戦いでフランスは決定的な敗北を喫します。この戦いは、ただの軍事的勝利ではなく、世界中の植民地に大きな衝撃と勇気を与えました。

「植民地は、立ち上がれば独立できる」──この事実はアフリカ諸国やアジアの独立運動に火をつけました。


3/アメリカとの戦争──さらなる試練

しかし、平和は再び訪れません。フランスが去った後、南ベトナムにはアメリカが介入します。これが第二次インドシナ戦争(ベトナム戦争)です。

アメリカは最新兵器と圧倒的空軍力を投入しましたが、ベトナムはゲリラ戦と国民の総力戦で対抗。1973年、アメリカは撤退を余儀なくされます。そして1975年、南北が統一されました。

独立から統一まで、実に30年に及ぶ戦い。これは「誰かに与えられた」ものではなく、流された血と涙の積み重ねによって勝ち取ったものでした。


4/外部支援と“主体性”の関係

もちろん、中国やソ連の支援はありました。しかし、支援があったからといって勝てるわけではありません。国民が団結し、戦略的に民族を守る意思を持たなければ、独立は実現しないのです。

その証拠に、同じく中国やソ連の支援を受けた北朝鮮は、今もなお南北統一を果たせていません。支援は条件の一つに過ぎず、決定的な要素は自らの意思と行動です。


5/歴史の分岐点──国の選択が運命を変える

19世紀後半、ベトナムはフランスの圧力に屈せず抵抗を選びました。その結果、激しい戦争の末に完全に植民地化される道を歩むことになりました。
一方、日本は欧米列強の圧力を受けつつも、19世紀後半に開国し、イギリスやアメリカとの交渉・模倣を通じて近代化を進めました。その選択が、日本を植民地化の運命から救ったのです。

つまり、どちらの国も自らの時代背景と立場の中で「生き残るための選択」をしたのであり、そこに優劣はありません。異なる選択が、異なる歴史を生み出しただけです。


6/結論──「解放」という美化の危うさ

ベトナムの独立は、日本がくれたものではありません。
日本の占領は、フランス支配を終わらせたかに見えて、実際には別の占領者に置き換わっただけです。そしてその後の長い年月、独立を守るために戦い続けたのはベトナム人自身でした。

(※当時の背景や出来事の詳細は、こちらの記事で解説しています → [日本とベトナム 1940–1945年の歴史:それは「解放」ではない]

これが、事実に基づく「ベトナム独立までの道」です。
美化も脚色もいりません。歴史は、都合よく塗り替えるためではなく、正しく学ぶためにあるのです。

もし「解放」という言葉を使いたいなら、日本はまず、自国がこの80年間、米軍駐留とどう向き合ってきたのかを振り返るべきでしょう。

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