海外ビジネスの世界では、「偶然の出会い」が大きなチャンスを運んでくることもあれば、予想もしない落とし穴へ引きずり込むこともあります。
特に、初めての国で、不安と期待が入り混じるとき──人は冷静な判断を忘れやすくなります。
今回紹介するのは、飛行機の隣席での“運命的な出会い”が、4,000万円の損失に変わった実話です。
ある日本企業の担当者は、使用済み機械をリサイクル・再利用する工場の設立を検討していました。現地視察のために乗ったホーチミン行きの飛行機、その隣に座ったのは、同じ日本人男性。
「私はベトナム進出のコンサルタントをしています。現地にも強いコネがありますよ。」
名刺と流暢な日本語、そして“偶然の出会い”というドラマのようなシチュエーションが、担当者の不安を一気に和らげました。慣れない異国で、何から始めれば良いのかわからない状況。頼れる存在が突然現れた──そう思ってしまったのです。
帰国後も連絡を取り合い、その“コンサルタント”にすべてを任せる形で工場設立を進めることに。しかし、話が動き出すと、最初の違和感が顔を出します。
契約書の日本語版と英語版の内容が一致していない。
会社名は他社のものがそのままコピペされている。
契約の範囲も責任の所在も曖昧。
不安を感じた企業は、筆者である私に相談をくれました。現地に飛んで確認すると、書類の不備や翻訳ミスが次々に判明。何度も修正や行政とのやり取りを重ね、やっと事業許可証までこぎ着けました。
ところが、そこで待っていたのは想定外の事実──
当時のベトナムでは、中古機械の輸入が全面的に禁止されていたのです。つまり、ビジネスの前提が完全に崩れていたのです。
4,000万円以上の投資、1年以上の労力。
すべてが水の泡となり、“コンサルタント”は徐々に連絡を絶ち、最後には完全に姿を消しました。
この失敗が示すもの
この話の本質は、「信頼」の作り方を間違えたことにあります。
日本人は偶然の縁や、直接会ったときの印象に影響されやすい傾向があります。ましてや、初めての海外進出という不安な状況では、「同じ日本人」「話しやすい人」に頼ってしまう心理が働きやすい。
しかし、出会い方や第一印象と、その人が本当に持つ実績・責任感は別問題です。今回のケースでは、その検証を怠ったことで、取り返しのつかない損失を招いてしまいました。
教訓:名刺よりも「中身」を見よ
- 出会った場所や話しやすさよりも、実績・契約履歴・責任範囲を確認する
- コンサルタントであっても、業務範囲・成果物・責任の所在を契約書に明記
- 現地の法制度は必ず自社でも調査する
- 「日本語で話せる」という安心感だけで判断しない
このエピソードは、『ベトナムビジネスで失敗した日本人たち:文化の違いが招いた10の実話と教訓 』 に収録された10の実話のひとつに過ぎません。
本書では、他にも“生々しい失敗談”と、それを避けるための具体的なヒントを紹介しています。
成功事例集では見えない、国境を越えたビジネスの現実を知りたい方へ。